1/100ハイクレポート#04 泉原→箕面駅

1/100ハイクレポート

歩く1/100ハイクレポート

#04

西の起点、
箕面へ。
自然と都市の
グラデーションを
楽しむ

総延長距離1,748kmの東海自然歩道。
その本線はトレイルブレイズハイキング研究所の2023年の調査によると
約1,200kmになるという。
本線を約100分の1のセクションに分けて
歩く1/100ハイク。
登山ガイドの渡辺佐智さんと
ロング・ディタンス・ハイカーの
清田勝さんと一緒に、大阪・泉原から
箕面にある
東海自然歩道西の起点を
目指すセクションを歩いた。

  • START泉原(大阪府茨木市)
  • GOAL箕面駅(大阪府箕面市)
  • TIME5h00min
  • DISTANCE15km

都市部との
時間の流れの
違いを体感する

「東海自然歩道の西の起点である箕面から歩くか、箕面を目指すかを考えた時に、里山を歩いて起点に到達するルート設定の方が人の生活圏内に自然歩道が寄り添っているという東海自然歩道の魅力が感じられると思いました」
そう話すのは、今回ルート設定をしてくれたロング・ディタンス・ハイカーの清田勝さん。大阪で生まれ育ち、現在も大阪に暮らしている。

長い長い東海自然歩道の魅力を伝える1/100ハイクの大阪編は、清田さんの案内で、登山ガイドの渡辺佐智さんが歩いた。国内外の山やロングトレイルをよく知る二人の目には、現在の東海自然歩道はどのように映るのだろうか。

ルート上には、多くはないが所々に道標が現れる。

出発点となったのは泉原。大阪モノレールの彩都西駅からバスかタクシーで30分ほどの距離にある泉原バス停から歩き始める。民家を抜けて林道に入ると、大阪という大都市近郊と思えないほどの静けさに包まれている。
「東海自然歩道が太平洋側の開発を一定のラインでくい止める役割もあったという背景を知ると、トラバースラインの見方が変わって見えてきました。日本の発展の裏で自然歩道を使って開発に対するブレーキをしようと考えた人がいたことも面白いですね」と渡辺さん。

東海自然歩道の大阪エリアには特別に有名な山はない。しかし、北摂山地の豊かな自然や、歴史的な街道が交わる場所でもある。
ルートを歩いていると、時折樹間から大阪市街のビル群が垣間見える。「都会のすぐ近くにこんな田舎があるんだと感じることができますよね。遠くにある大阪市内のビル群では目まぐるしく時間が流れているんだろうな、なんて思いながら、ゆったり流れる時間の中を歩く自分とのギャップに不思議な感覚を覚えます」と清田さんは語る。

東京と大阪をつなぐ東海自然歩道のスケールの大きさを知る。
ルートを少し逸れるところに「勝ちダルマ」で有名な勝尾寺があるためか、ちいさなダルマが道標の上に置かれていた。

箕面の
豊かな森を歩く

歩き始めて2時間ほどすると、箕面の森に入る。明治の森箕面国定公園は、東海自然歩道東の起点がある高尾山とともに、1967年(明治42年)に「明治100年」を記念して国定公園に指定された豊かな生態系を持つ森だ。

「寺社と自然の関係が高尾山と雰囲気が似ているのですが、西と東の文化の違いを感じます」と渡辺さん。終盤に訪れた箕面大滝はかつて修験道の場としても栄えた。奈良・平安時代から信仰の対象とされてきた場所が、今もこうして人々を惹きつけているのだ。

箕面大滝を後にし、箕面川沿いの「滝道」と呼ばれる遊歩道を進むと、瀧安寺を過ぎたあたりでレトロな街並みが現れてくる。「森を抜けてグラデーショナルに観光地に入り、人の流れに沿うように歩いていると、いつの間にか箕面駅にたどり着いている。これが人の生活圏内に自然歩道が寄り添っているという東海自然歩道の魅力なのでしょうね」と清田さんが言うように、アメリカのアパラチアントレイルをモデルにして自然と人里の近さを感じられるようにつくられたルート設定は東海自然歩道らしい個性なのだろう。

尾根道の途中に現れた立体地図で地形を確認する。
落差33m。箕面大滝の迫力ある姿は古くから多くの人を魅了してきた。
姿を見ることはできなかったが、箕面川にはオオサンショウウオが棲息する。
箕面山 瀧安寺は現在の宝くじの起源である「とみくじ」を日本で初めて行った寺としても知られている。
古い建物が建ち並ぶ、風情ある遊歩道を歩いて箕面の町を目指す。

歩くことでしか
得られない
出会いや気づき

「山地(自然)と里(人の歴史)が交わるハイキングの面白さ、そして歴史の長さを感じられたルートで楽しかったですね。東海自然歩道の他の区間も気になってきました。毎度思うことですけど、どんなところも歩いてみないとわからないんですよね。歩くことで点が線になり、やがて面になり、土地に対する理解度が感動につながります」と渡辺さんが言うように、ハイキングの魅力は、ただ目的地に到達することではない。歩くことで、気づきや理解の深度が増し、広がっていくのだ。

また、長く歩くことでしか得られない感覚もある。
「東京と大阪をつなぐ道として名前だけは知っていた東海自然歩道ですが、50年経った今もこうして歩く道として残っていることのロマンを感じます。僕が歩いたアメリカのロングトレイルのスピリットを宿した道が日本にもあることに、なんだかワクワクしています。東海自然歩道に関わらず、長く歩くことの最大の魅力は、“知って磨いてくこと”なんです。長い旅の中で、知らなかった自分や、忘れていた自分の原石みたいなものを見つけて、その原石を磨いて磨いて、その人を、よりその人らしくする行為なんだと感じています。絶景を目の当たりにするような瞬間的な喜びもあるかもしれませんが、長い歩き旅は、後からじんわり感じる温かさや懐かしさのようなものを感じるんです」
そう清田さんが語ってくれたように、50年前に作られたこの道には、全ての人が自然に触れるためのきっかけをつくる、という思いが込められているのだが、それはゆっくりと歩き、風景と自分が結びついていくことで感じられることなのだろう。

渡辺佐智
わたなべ・さち/登山ガイドからバックカントリーガイドまで四季を通じて活躍中。雑誌、テレビなど山のガイドとして出演多数。自然に関する知識も豊富。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド、JAN日本雪崩ネットワーク認定レベル2、日本赤十字社救急救命員、ウィルダネスファーストエイド90時間、尾瀬保護財団認定登山ガイド。
https://www.facebook.com/sachiwatanabe.3776
清田勝
きよた・まさる/ロング・ディタンス・ハイカー。『cafe & bar peg.』店主。日本や世界各地を旅する中、ロングトレイルの旅に出会い、アメリカ三大トレイルを踏破。旅や自然から学んだことをPodcastやSNSで発信している。
https://www.instagram.com/masama43/
1/100ハイクレポート#01
1/100ハイクレポート#02
1/100ハイクレポート#03
1/100ハイクレポート#04