
Interview
今日走っていただいたビーチ沿いのコースは、普段から走り慣れているお気に入りのコースだそうですね。朝走ることが多いんでしょうか?
以前はサンセットの時間帯に走っていたんですけど、最近では朝走るのが好きになりました。まだ人の気配のない時間帯のクリーンな空気感の中で走っていると、身体の中に新鮮な空気が入ってきて、朝のいいエネルギーをチャージしている気分になるんです。晴れた日は海の表面にキラキラと陽が差して、「もう幸せ!」って。たった15分くらいだったとしても、これがあるとないとでは1日の充実度が全然違うんですよね。
生まれは湘南で、20代の多くを六本木という東京のど真ん中で暮らし、モデルからミスユニバースに挑戦、ファイナリストに選ばれるなどの経験を経て、再び地元に戻り畑を始めたのが27歳の時。“農的な暮らし”へと大きくシフトしようと思ったのには、どんなきっかけがあったのでしょうか?
高校生の頃から東京への憧れが強くて、高校を卒業してモデルの仕事を始めたんです。20代半ばは、六本木のセレクトショップで働いてました。その生活環境で知り合った東京の友人たちは、生理痛や生理不順、身体に何か不調あると、よく薬やサプリメントを飲んでいたんです。
私も、思春期の頃、生理痛で薬を飲もうとした時がありましたが、「薬はカラダを冷やすから、なるべく食事で身体を整えなさい」と母に教わって育ったので、友人たちを見ていて「それじゃ身体が冷えてしまう」と思っていました。
東京の暮らしは刺激的でとても楽しかったけど、食事で身体を整えるには、外食も多かったので難しくて。もう少し自然に寄り添いながら、食も大切にしたいなと思っていました。




20歳で、「薬で身体を治す」ことに疑問を感じていたということは、お母さんが家庭での食育をしっかりとされていたんですね。
私が3歳のころにアトピー性皮膚炎を発症したというのもありました。それも、毎日朝起きたらシーツが血まみれになるほどの重度で、包帯が欠かせなかったんです。それを、母は薬に頼らず、自然療法と食べもので治してくれました。すごく長い闘いで、完治したのは高校生の頃でしたけど、そのおかげで食が身体を支え、整えてくれるんだという実感を持つことができたんです。
体質を根本的に変えるには長い時間がかかるけれど、身体は必ず応えてくれるというのを、身をもって体験できたというのは大きなことですね。
「もうアトピーは治らないかな……」と諦めそうになるほど辛かったですが、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ治っていくプロセスを体験できたことは大きかったですね。ランニングも続けるうちに少しずつ走れる距離が伸びていく。日常的に身体を動かすことでも、身体は応えてくれるのを実感しています。


地元の湘南に戻って、畑を始めたきっかけはなんですか?
東日本大震災が起きて、買い占めや計画停電、ライフラインが滞ってしまった時に、自分の生活が消費することだけで成り立っていて、種があっても育て方さえ知らないことが脆くて怖いことだと感じたからです。
生活基盤を強くしたい、どんなことが起きても強く生きていきたいという思いがあって、畑をやりたいと思うようになりました。

「発酵人」として活動するようになったのは、そこからですか?
湘南に自然農をやっている「へっころ谷」という発酵食のほうとう屋さんのごはんが美味しくて、よく通っていたんです。そこで、畑をやりながら発酵料理を教えてもらうようになりました。
畑を始めたころはわかっていなかったけど、続けていくうちに土と身体って、すごくリンクしているんだと思うようになって。土の中の微生物が働いて発酵すれば土が健康になるように、人の腸の中の菌が働いて発酵すれば身体が健康になる。そのどちらも地球の健康につながっている。それが身に沁みて感じられた時、自分がアトピーを治してきたプロセスとつながりました。そうしたたくさんの気づきから、身近な友人たちに味噌作りを教えるようになって、その輪が徐々に広がって今の活動になりました。

今の暮らしを始めてから、サーフィンとランニングが日課になったそうですね。
田上さんにとって、サーフィンとランニングには、どんな意味がありますか?
発酵のワークショップを開いたり、「seed to table」という食と農業の学校を主宰したり、常に企画して行動に起こすという日々を送っていると、無意識に自分の世界へギュッと入り込んでしまうことがあるんです。それが、身体を動かすことでほどけて、ポジティブなマインドを取り戻すことができる。だから、波がある日はサーフィンして、波のない日はランニングと、毎日何かしら身体を動かします。
私の中では、畑仕事とサーフィンとランニングには、共通するところがあるんです。自然の中で身体を動かしエネルギーを感じ取ることで、新しいアイデアが浮かんで、周りの人たちにもいいエネルギーを届けることができる。自分自身のベースを整えて循環させていくために、不可欠なものだと感じています。
text : Eri Ishida , photo : Rai Shizuno, movie : Jun Yamagishi





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THE NORTH FACE が2009年以来続けてきた、各直営店にリサイクルボックスを設置して不要になったアイテムを回収、これを分解・再生させる「GREENCYCLE」プロジェクト。「EXPLORE SOURCE」は、これを進化させ、独自に開発した純度の高いリサイクル繊維へと再生成し、よりハイスペックな製品を生みだす循環型アップサイクルを実現しました。機能性を重視するアウトドアウエアには必要不可欠とされてきたナイロンやポリエステルなどの石油資源をもととした化学繊維。これらを新たに調達することなく回収・再生させることで、ユーザーとともに循環のサイクルを生みだす活動を続けています。

Bio based materials
「FREE RUN」コレクションにメインで使用されているナイロン素材はトウゴマ(ヒマ)からつくる植物由来のセバシン酸60%と、ヘキサメチレンジアミン40%を重合・紡糸した植物由来の合成繊維です。
植物が成長過程において吸収する大気中の二酸化炭素量と、焼却処分によって排出される二酸化炭素量が同じであるため、100%石油由来の繊維に比べ大幅に二酸化炭素が削減できます。